大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所伊丹支部 昭和43年(ワ)110号 判決 1971年10月14日

原告

豊商事株式会社

右代表者

川崎正蔵

右代理人

矢島惣平

ほか一名

被告

山田一男

右代理人

古川清箕

主文

被告は原告に対し、金一九六万円とこれに対する昭和四三年八月一二日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。訴訟費用は、これを三分し、その一は原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

(請求の趣旨)

一、被告は原告に対し、金二九六万円とこれに対する訴状送達の翌日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は、被告の負担とする。との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(請求の原因)

一、原告は、大阪化学繊維取引所(以下本件取引所という。)所属の商品仲買人である。

二、被告は、昭和四二年一一月二八日原告に対し、本件取引所において、同取引所受託契約準則(以下準則という。)の定めに従つて、大阪人絹の先物取引をすることを委託し、原告はこれを承諾した。

三、当時における右準則によれば、商品仲買人が委託を受けた取引を決済したときは、同取引所理事会の定める料率に従い、委託手数料を徴するものとするとの定めがあり、当時理事会の定めた大阪人絹取引の委託手数料は、建玉、手仕舞とも、その五〇〇グラム当りの約定値段が二一〇円以上二二〇円未満のときは、一枚(一、〇〇〇キログラム)当り一、二〇〇円、約定値段二二〇円以上二三〇円夫満のときは一枚当り一、三〇〇円であつた。

四、原告は、被告の指示注文により、昭和四二年一一月二八日本件取引所において、

(一)  大阪人絹一二月限を約定値段二一六円三〇銭で二〇〇枚(価格合計八、六五二万円)

(二)  大阪人絹一月限を約定値段二二三円で二〇〇枚(価格合計八、九二〇万円)

を、いずれも被告のため売建玉し、その際被告はその委託証拠金として、同月三〇日に四〇〇万円、同年一二月一日に六〇〇万円を原告に預託する旨約した。

五、ところが、被告は、約旨に反し同年一一月三〇日に預託すべき委託証拠金を支払わず、委託証拠金の支払を一切拒絶するに至つたので、前記売建玉を維持することができず、止むなく準則一三条に基づき、被告の計算によつて手仕舞処分する旨被告に告げて、同年一二月一日同取引所において、

(一)  前項(一)の売建玉を約定値段二一九円、価格合計八、七六〇万円

(二)  前項(二)の売建玉を約定値段二二五円二〇銭、価格合計九、〇〇八万円

で、いずれも買手仕舞した結果、以上の取引によつて合計一九六万円の損失を生じたので、原告は、同日被告のため本件取引所に立替支払つた。

六、よつて、右立替金一九六万円および本件委託手数料合計一〇〇万円の総計金二九六万円とこれに対する本訴状送達の翌日から支払済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(答弁の趣旨)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、原告の負担とする。との判決を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一、請求の原因第一項は認める。同第二項は否認する。同第三項は不知。同第四項は否認する。同第五項中、被告が委託証拠金を支払わなかつたことは認め、その余は不知。同第六項は争う。

二、被告は、原告に対し本件商品取引の委託をした事実はない。すなわち、昭和四二年一一月二八日原告会社の営業部長、課長らが被告方を訪ね、商品取引に無知な被告に対し、甘言をもつて執拗に商品取引を勧誘した。被告はこれに応じなかつたのであるが、その求められるままに同人らの持参した用紙二、三枚に捺印したことがある。右用紙がどのような内容であるかは説明されず、印刷された不動文字以外白紙であつた。そのとき、取引すべき商品の種類、限月、売付又は買付の区別等の指示もしなかつたし、又受託契約準則の交付も受けていないから、原告主張のごとき委託契約は成立していない。

(被告の主張)

一、被告が内容不知のまま捺印した各用紙は、承諾書、通知書、注文伝票のようであるが、仮に右捺印によつて原被告間に商品取引委託契約の成立が認められるとしても、右委託は次のとおり、商品取引所法(以下法という。)および本件取引所における準則の各条項に違反し無効である。

(一)  被告が捺印した承諾書には、捺印した当時、本件取引所における取引である旨の記載はなかつたし、かつ準則の交付を受けていない(準則一条二項違反)。

(二)  被告は、原告に対し準則三条各号所定の事項について、その一たりとも指示を与えた事実はない(準則三条、一八条一号、法九四条一項三号違反)。被告会社外務員らが擅に右事項を決定したとすれば、いわゆる一任売買の受託となる(準則一七条違反)。

(三)  被告が、捺印した場所は、被告の経営する「武育センター」の事務室であつて、被告が原告の本店或は営業所に出向いて取引した事実はない(準則四条、法九一条一項違反)。

(四)  被告は、原告から売買取引が成立した旨の通知を受けたことがない(準則五条一項、法九五条違反)

(五)  被告は原告に対し、委託証拠金の預託をしていない。しかも原告は主張の取引日の翌々日三〇日に至るまで、委託証拠金の請求すらしていない。委託証拠金預託の制度が、仲買人の債権担保の機能を有することは否めないが、本制度の趣旨は、過当な投機を抑制して委託者を保護し、更に相場の不当な変動を防止し、経済秩序の安定を計ることにあるから、法九七条一項は強行規定と解すべきであり、同条に違背して委託証拠金を徴することなしになされた委託契約はその効力を生じない(準則七条一項、八条二項、法九七条一項違反)。

(六)  原告会社の外務員たる五十川、兼上は、被告に対し、利益を保証して勧誘したものであり(準則一九条違反)、又利益の生ずることが確実であると誤信させるべき断定的判断を提供して委託を勧誘したものである(準則一七条、法九四条一項一号違反。)

二、以上の各違反事実が、その一個の違反のみでは単に行政監督上の措置を受けるに過ぎず、本件委託契約の効力に影響を及ぼさないとしても、本件のごとく違反事実が累積された場合には、これらを総合してその効力を判断すべきであり、前記六個の違反事実の存在は、本件委託契約を無効ならしめるものである。

三、仮に、以上の主張がいずれも理由がないとしても、本件委託契約は、原告会社外務員五十川、兼上の欺罔によつてなされた非真意の意思表示であるから、被告はこれを取消す。

(被告の主張に対する原告の答弁)

一、被告の主張一項の(一)、(二)、(四)、(六)の各事実は否認する。同項の(三)のうち、被告が主張の場所で捺印したことは認め、その余の事実は争う。同項の(五)のうち、被告が委託証拠金を預託していないことは認めるが、その余は争う。

二、仮に、被告主張のような違反事実があつたとしても、そのことにつき主務官庁からの行政上の監督指導を受けることがあつても、本件委託契約を無効ならしめる性質のものではない。なお被告主張一の(六)後段において、法九四条一項一号、準則一七条一号違反を主張するが、右は昭和四三年一月二七日以降施行の改正規定であつて、本件取引当時にはかかる規定はなかつた。

三、被告は、原告会社の外務員が、被告主張の場所で原告会社を代理して本件取引の委託注文を受理して契約を成立させたから、法九一条一項および準則四条に違反すると主張する。しかし、右外務員の職務は、顧客に対する取引の勧誘に過ぎず、外務員には原告会社を代理して委託を受ける権限はなく、勧誘の結果顧客から委託注文をしたい旨の意思表示のなされた承諾書、通知書、注文伝票に署名捺印がなされたときは、外務員は顧客に対するサービス又は便宜として、いわば客の使者の役目を果し、これを管轄の本店、支店又は営業所に取次いで伝達してやつているのが実情であり、原告会社としては右伝達されたときに委託を受けたものと取扱つているのであつて、被告との取引も同様外務員が右書類を原告会社神戸支店に取次ぎ伝達されたとき委託を受けたものであるから、被告が現実に原告会社の本支店や営業所に出向かなかつたからといつて、そのことだけで主張するような違反があつたものと言うのは誤りである。

(立証)<省略>

理由

(請求の原因について)

原告が、本件取引所所属の商品仲買人であることは、当事者間に争いがない。<証拠>を総合すると、原告会社の大阪支店営業部長で外務員であつた訴外五十川幸雄および同神戸支店営業部第二課長で外務員であつた兼上幸一らは、昭和四二年一一月二八日被告経営の「武育センター」に被告を訪問して商品取引の委託を勧誘したところ、被告は、勧誘に応じて、「大阪人絹」の「一二月限」と「一月限」各二〇〇枚宛を、本件取引所の同日後場二節の成行値段で各売建玉し、売値より五円値下がりすれば利食い買いをする旨の注文指示をしたうえ、その際、準則に従つて委託取引をする旨記載された承諾書(甲第一号証)、準則二条一項による通知をする旨記載された通知書(甲第二号証)にそれぞれ被告自ら署名捺印し、更に注文伝票二枚に外務員が被告の注文指示に従つて銘柄、限月、枚数、成行、指値等の欄に記入したもの(甲第五号証の一(イ)、同号証の二)に被告自ら署名捺印したうえ、委託証拠金の内金四〇〇万円を同月三〇日に、残金六〇〇万円を同年一二月一日に差入れる旨約したので、原告の外務員は、右注文を右神戸支店業務課に伝達して注文どおりの銘柄を原告主張の約定値段で売建玉し、その後一一月三〇日に約束の委託証拠金四〇〇万円の支払を請求したところ、被告は、本件取引の利益を保証しなければ右請求に応じられないと主張し、同年一二月一日本件取引所で同所常務理事会のもとで話合いが行われたけれども、被告が同様の主張を固執して物別れとなつたため、原告は止むなく準則一三条に基づいて、被告に建玉を手仕舞する旨告げて、同日の後場一節で買仕舞して決済した結果、本件取引から合計一九六万円の損失を生じたので、原告において本件取引所に対し被告のため右損失金を立替支払つたこと。準則一四条に基づき理事会の定めた委託手数料の額が原告主張のとおりであり、本件取引による手数料の総額が一〇〇万円となつていること。以上の各事実が認められ、これに反する被告本人の供述は、前掲各証拠と対比してたやすく措信できず、ほかに右認定を左右するに足る立証はない。右認定事実によれば、請求の原因事実が認められる。

(被告の主張)

一、被告主張一の(一)について

被告の供述以外右主張を認めるに立証はないところ、右供述は前示五十川、兼上の各証言と対比してたやすく措信できない。かりに前示承諾書に本件取引所の表示がなかつたとしても、被告が大阪人絹の売買取引を原告に委託することを承諾して署名捺印したことは前示のとおりであり、被告本人も又右同旨の供述をしているのであるから、本件委託契約になんらの影響を及ぼすものではない。又かりに「準則」が被告に交付されていなかつたとしても、準則はいわゆる普通契約約款であるから、本件取引所の商品市場における売買取引の委託については、当事者間に特別の約定がないかぎり、商品仲買人(昭和四二年法律九七号による改正後は「商品取引員」以下同じ。)のみならず、委託者をもその意思のいかんにかかわらず、又その知・不知を問わず、拘束するものと解すべきであるから、右特別の約定の認められない本件では、委託者に対し準則の交付がなかつたとしても、本件委託契約を無効とするものではない。

二、被告の主張一の(二)について

前示認定のとおり、被告は本件取引にあたり、準則三条各号所定の事項を指示しているから、被告のこの主張も理由がない。

三、被告の主張一の(三)について

被告主張の場所において、本件委託契約のため、被告が承諾書、通知書、注文伝票に捺印したことは、当事者間に争いがなく、被告が原告会社の本支店又は営業所に直接出頭して、本件委託契約を締結したものでないことは、弁論の全趣旨に照らし明らかである。原告は、自己の外務員が被告の使者となつて被告のなした委託の意思表示を原告会社の営業所等に伝達することにより、右営業所で委託を受けたことになるとし、法九一条一項に違反するものでないと主張する。

ところで、本件取引時施行されていた法九一条一項の法意は、「取引の場所」と「外務員」を規制することによつて、外務員の不正手段による委託契約の成立を防止し、委託者となるべき一般投資家に不測の損害を蒙らせないように配慮し、もつて取引の公正を計ろうとするものであることが推測されるから、原告主張のごとく、外務員が委託者の使者となつて仲買人に委託の意思表示を伝達し、或は外務員が委託者の代理人となつて仲買人と委託契約を締結するものと解することは、同条の法規制を潜脱する結果となることは極めて明らかであつて、かような取扱を是認するならば、同条を空文化しその実効は殆んど期待できないことになる。

従つて、かような外務員を介しての受託は、特別の個人的信頼関係に基づいて外務員が顧客のために行為したなどの特段の事情のないかぎり、外務員が仲買人の代理人として委託を受けたものと解するのが相当であるから、右特段の事情の認められない本件受託は、同条および準則四条に違反する行為であると言わざるをえない。

しかしながら、かような受託場所の制限は、同条の法意に鑑みるときは、商品取引という特殊分野にあつて、一般投資家の保護を企図する行政上の取締規制に過ぎず、かかる法規に違反して締結された委託契約の効力を左右するべきものではないと解するのが相当である。けだし、契約締結における場所的因子は契約の効力に影響を及ぼすべき性格はなく、また受託場所違反の契約だからといつて公序良俗に反すると言うことは困難であるのみならず、若しこれを無効とすれば、委託者は利益を生ずる取引を黙認し、損失の生じたときのみその無効を主張してその負担を免れるという不当な結果を招来し、取引当事者間における信義則にも違背し到底容認することはできないからである。本件委託契約は同条に違反するけれども、これを無効とすることはできない。

四、被告の主張一の(四)について

<証拠>によると、原告は被告に対し、本件取引の成立につき所定の通知をしていることが推測されるのであるが、仮に右通知がなされなかつたとしても、法九五条の趣旨は、委託者に対し取引状況を迅速かつ正確に通知することによつて、取引の遂行を円滑公正にし、もつて委託者の地位の安定を計りこれを保護しようとする行政目的に出た単なる取締規定と解すべきであつて、本件委託契約の効力になんら影響を及ぼすものではない。

五、被告の主張一の(五)について

被告が委託証拠金を原告に預託していないことは、当事者間に争いがない。ところで、委託証拠金は、商品仲買人が委託者に対し取得する委託契約上の債権を担保するため預託するものであつて、主として仲買人の地位の安定を計るものと考えられる。そしてこの制度は、委託者が安易に商品取引に手を出したり、過当な投機に出ることを抑制することにより、間接的に委託者を保護し、ひいては相場の不当な変動を防止し、よつて経済秩序の安定を計る機能を有することをも否定できない。けれども、かかる機能は本制度の反射的、副次的効果ともいうべきもので、商品取引所法による諸規制全般がかような機能を多かれ少なかれ持つているのであるから、委託証拠金制度におけるかかる機能の存在を理由に法九七条一項を強行規定とし、委託契約の効力を否定することは、なんら合理的な理由を見出しえないのみならず、若し委託証拠金の預託されない取引を無効とするならば、委託者は自己に利益な取引を容認して利益をおさめ、損失の生じた取引の効力を争つてその負担を免れるという結果となり、仲買人は不測の損害を蒙ることになり、取引における公正が保たれないといつた弊害さえ生ずるのである。この点における被告の主張は採用できない。

六、被告の主張一の(六)について

<証拠>によれば、原告会社の外務員である五十川、同兼上らは、本件商品取引の勧誘にあたり、被告に対し、「確実な話だからひとつやつてみては。」とか、「絶対確実に儲かる。」とか、「一、〇〇〇万円はれば一ケ月後に一、五〇〇万円にしてみせる。」とか、「銀行から金を借りてでも取引をすべきだ。」といつた趣旨の言葉をもつて本件取引の委託を勧誘したことが認められ、これに反する<証言部分>は前掲各証拠と対比してたやすく措信することができない。

右認定事実によると、原告会社の外務員は、被告に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して、本件委託を勧誘したものというべく、右の行為は、本件取引当時の法および準則に違反するものではないが、昭和四二年法律九七号により改正された法九四条一項一号に違反するものであり、商品取引に無知である一般委託者に対し不測の損害を蒙らせるおそれがあるから、不当な勧誘というべきである。

しかし、かような不当勧誘によつて行つた商品取引の委託契約であつても、それが詐欺行為として取消され、或は要素の錯誤として無効となる場合は格別、商品取引における投機的な性格からみて、当然に私法上の効力を否定すべきものではないと解すべきである。

被告は、原告会社の外務員が「利益を保証して勧誘した。」と主張し、右主張に沿う被告本人の供述もあるが、右供述は前示五十川、兼上の各証言と対比してたやすく措信することができない。

七、被告の主張二について

以上のとおり、本件委託契約は、(一)、法九一条一項および準則四条、(二)、法九七条一項および準則八条二項、(三)、改正法九四条一項一号および改正準則一七条に違反するが、いずれも本件委託契約の効力に影響がないこと前示のとおりである。そしてこれが累積されたとしても、本件委託契約の効力を否定するべき理由は見出せない。

けれども、右(一)および(三)の違反事実の存在は、本件委託手数料の請求を排除するに足りる理由があるものと解すべきである。けだし、商品仲買人が商品取引の委託を受ける目的は、もつぱら委託手数料を得るためであり、そのために自ら又はその雇用する外務員をして委託の勧誘をするものである以上、自ら法および準則に違反し不当な勧誘をあえて行いながら、同じく法および準則の規定を援用して高額の手数料(報酬)を請求することは、法および準則の精神に反するばかりでなく、また取引当事者を支配する信義の原則に反し、許されるべきではないからである。もつとも、右(三)の違反事実に対する禁止は、本件取引当時の法および準則には規定されていなかつたが、商品仲買人として行うべきでない当然の事理を改正法および準則において明らかにしたものであつて、かかる不当な勧誘は本件取引当時においても許されていなかつたものと解すべきである。本件委託手数料一〇〇万円の支払を被告に求めることは許すべきでない。

八、被告主張三について

原告会社の外務員である五十川、兼上らが、利益の生ずることが確実であることを誤解させるべき断定的判断を示して勧誘したことは前示のとおりである。けれども、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一二号証および前示五十川、兼上の各証言によると、被告は、本件取引の六日前に妻妙子名義で原告会社に対し、大阪人絹三月限二〇枚の売建玉を委託したころ、本件取引当時には右売建玉の相場が値上りして損失を生じていたため、その対策として本件取引の委託を勧誘されていたことが認められるから、被告としては、商品取引による損失を蒙むるであろうことは認識していたものと推認すべく、原告会社の外務員らの勧誘行為に欺罔されて本件委託取引をするに至つたものと断ずることはできない。

被告は、前記外務員らが利益を保証するといいながら、その後保証書の差入れを拒絶した旨供述するが、右供述中、外務員が利益を保証したとの部分は、前顕五十川、兼上の各証言と対比したやすく信用できないし、そのほかに原告会社の外務員の欺罔行為によつて本件取引の委託を行つたことを認めるに足りる立証は見当らない。

九、よつて、被告は原告に対し、本件委託取引によつて生じた損失を原告が本件取引所に立替支払つた金一九六万円とこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四三年八月一二日から完済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告の本訴請求は、右の限度において正当として認容し、その余の部分は失当として棄却すべく、仮執行の宣言は相当でないのでつけないこととし、民事訴訟法九二条を適用して、主文のとおり判決する。(安田実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例